慕   情

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「そりゃ…困ったなあ」 「だろ?おふくろが死のうが  生きようが、知ったことでは  ないけれど、親類に迷惑を  かけちゃいけないし…。  とりあえず病院の金は  病院へ支払ったんだけど…」 「かなり…悪い…?」 「ああ、医者が言うには  『長くない』って。いやね、  金くらいなんとかなるけど  弟に『一目だけでも会って     詫びをしたい』  なんて言い出してさ…」 「詫び…いまさら…いや、すまない」 「いいって。今更だよ、いまさら!」 「弟もやっと昔を忘れて  元気になってきたし…  弟に、どう切り出していいやら…  黙ったままでいいのか…とか…」 “詫び”と言う言葉が 春紀にも刺さる…。 紀州の父親も  『もしも何処かで、かず子と    亮二のことを知っているから   潜んで暮らしているならば   根気よく捜さずに、決断した   ことを、何より詫びたい』 と、言ってるらしい。 つい春紀も漏らす… 「……いまさら…」 加藤が煙草を出して 春紀が火を点けた。 男二人の煙が… 彼方へと流れて…いった…。
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