慕   情

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夕暮れになって、 「今日は忙しかったわね、  臨時収入は助かるけど」 「ケーキの余りも頂戴できたし」 「やっぱり茜さん、凄いわあ!  飲食業の方は手際いい」 「お役に立ててよかったです」 結婚準備のために 正と社宅へ越していた茜も 今日は皆と行動を共にしていた。 「あら?あれ、ウチの子供達?」 一人が指す方を見ると 「樹…駅前まできて  遊んでいたの?」 三人の男児が自転車に乗っていた。 「うん。ちゃんと許可は  取ってるよ。でも少し  遅くなっちゃった」 「深大寺までね、迷子のおばあさんを  送ってあげてたんだ」 子供達が言うのを聞いて 「おばあさん…なら心配は  ないだろうけど…  知らない人には気をつけなきゃ」 志保は樹の頭を撫でた。  「いた!いた!」 声の方を見ると 春紀と正、加藤の姿が。 「ほら!みんなが探してたんじゃない。  迷惑かけちゃダメよ」 志保の言葉に頷きながらも 樹達はさして気にもせずに 「お兄ちゃん、こんにちは」 加藤の自転車屋と駆け入った。  「荷物、持つよ」 「ありがとうございます」 春紀と志保にも、穏やかな薄暮…。 しかし、数日して この老婆とは対面することになる。
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