慕   情

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(奥様が酷いことでも  言われては…) 近藤が春紀夫婦に 近づこうとしたとき、 二人は、逆の…帰る方へと 足を向けて行ってしまった。 (俺を呼び付けたんだから  こちらに任せてくれるつもりか) 兎も角敦子には 樹を拐うようなことは ないだろうから (まずは葛城の処へ行くかな) 近藤も二人より少し時間を おいてから芝山屋敷へ。 歩くには距離のある道を、 様々な策やら巡らせつつ… 芝山家の敷地の門まで来ると 庭掃除をしている若い娘が見えた。 「申し訳ありませんが」   近藤が背後から声をかけたので 娘は驚いて振り向いた。 美貌の右横顔に対して 不似合いな引き攣りの左横顔。 娘は見られたことに ハッとして俯いたが、 娘に悲しい思いをさせないように 「既婚者住宅はどちら側でしょうか?」 と、近藤は義務的に尋ねた。 「…み、右手です……」 「ありがとうございます」 近藤は微笑みながら右手へ… すると、 「御足労でした、近藤さん」 手をあげる春紀がいた。   
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