慕   情

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「竹内家の山仕事で  生計を立てていた父が  山の事故で亡くなり…  流行り病いで母親も妹も  死んでしまい、まだ樹くらい  だった私を引き取って  下働きでおいて下さったのが  旦那様でした。行儀から  裁縫まで教えて下さった奥様。  私が甘かったんです。  可愛いがってもらっているから  坊っちゃんとの恋も  赦して貰えると……。  若さから二人で東京へ来て、  十九の坊っちゃんに  慣れない力仕事をさせて  病気にしてしまって…  さぞや旦那様や奥様は  私を恨んだことでしょう…。  今になれば…私も人の親になり  冷静に考えれば…私を…  恩知らずの私を憎んで  当たり前だと…思えます」 十九と十七で木曽を離れた二人は、 豊かな世であれば… 戦争さえなければ… 生きて両親に赦しを乞える日が、 もしやできていたのかもしれぬと …春紀達はただ無言で話を聞いた。  
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