慕   情

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「人間ってね…仏にもなれるし  鬼にもなれる生き物だと思うの…  心にゆとりがあれば、  多少の難儀を許せるのに、  ゆとりがないときには  単純明瞭なことも許せない…。  かと言って仏でも鬼でもない  “人間”だから、後になって  後悔や良心に囚われてしまう」    蓉子が呟いて… 心当たりのある全員が 微かな頷きを、何度も何度も。 春紀にしろ、そうであった。 自分を死んだと見限った親を 理解して故郷を捨てたと… 納得している自分は仏。 “生きているなら会いたい”と 言われてみれば恨み節が出て、 親をソッポを向く自分は鬼…。 悟ったつもりの毎日は 相変わらず“南無”と… “南無”と問うて 見えない“法蓮華経”に 惑い続けているのだ。
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