灯り燈せば…

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「騙して…すまなんだ(申し訳ない)」 「何を…何をおっしゃいますか…  ようも親に代わって慰めて  生きる手立てへ導いて下さいました」 「いや…それは亮一の器量と  努力以外のなんでもない」 即隆は数枚の写真を床に並べた。 出征した時よりかなり痩せて 余計に背丈と大きな瞳が 目立っている亮一(春紀)。 けれども、背広姿が板につき、 一目で都会の人だと解る様子。 「こんな田舎の人間やない  みたいやろ?」 「写ってるのは…?」 「大学と会社や」 「大学?」 「建築士を目指してる」 写真を手に取り、 滲む涙を拭いながら 目を凝らす亮輔。 「会社の名刺と…」 志保と樹の三人の写真も 亮輔に見せた即隆は 「“葛城春紀”と名を変えて  たった一人きりの戸籍から  女房子供まで持てるとこへ  持ってきたんや、亮一は。  さすが紀州の山男やないかあ」 堪えていた涙を落とした。
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