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「あの盆の数日は…
忘れられん時間になった。
故郷まで辿り着いた安堵から、
女房と弟の再婚を知っての絶望…。
寝てもシベリアの悪夢、
起きても酷い現実と
亮一にかける言葉など……。
そんな時やった…」
即隆は薄皮饅頭を二つ、
亮輔の前に。
「今朝、たま子が供えてくれた。
仏に、というより“亮一”に」
「たま子が?!」
「『トウチャの匂いがする』言うて…
『お化けになって帰ってきた』
そう言うて…そこから…
何か美味しい物があったら
供えるようになった…」
「うぅ……あああああ!!」
途中から本堂に響く亮輔の嗚咽は
咆哮と言っても過言ではなかった。
「阿呆やあああ!ワシは阿呆や!
子供の苦労も…孫の辛さにも
気づきもせんとぉぉ…
どないして…どないして
償うてええんや…どないしてぇ」
己の峭刻に、亮輔は膝を
拳で打ちながら泣き続けた。
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