灯り燈せば…

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「やはり…血が呼ぶのかしら…。  ごめんなさい暗い顔などして、  とても喜ばしいことなのに。  私、私って心が狭い…」 歯切れの悪さの理由は 春紀にはよく判っていた。 常に幸福の途中で 無残に摘み取られてきた 志保の野花のような暮らし。 春紀が故郷への恋慕に 今の生活を棄てやしないかと 不安が過る… どんなに信頼していても。 だから… 「親父に会うだけさ、東京でね。  向こうには向こうの都合がある。  家族全員となんて、ハハハ」 春紀は戯けて笑った。   「だから、今日は下見!  この店どうかな?  親父が気にいってくれるかな?  当日は僕らと親父、四人で  ここで飯でも食おう」 「ええ!ええそうですね!」 志保も春紀に応えて 明るく笑った。  
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