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一方紀州では……
「急な御用での東京、
お義父さん、恙無う到着
なさったでしょうか?」
「県知事さんの御紹介の
仕事やから、気も遣うなあ」
庭の無患子の木を、
何気に見ながら衣玖は答えた。
亮輔が上京するにあたり、
松堂佳嗣は、娘の嫁ぎ先の
高輪の屋敷への植樹…
という名目を付けてくれた。
その上…
「浜松の義姉さんのとこへも
二日ほど寄ると言うてたから
少し…遅くなるやもしれん…」
亮輔は、長らく会えずにいる
自分の姉の婚家も廻る予定を
組み込んで、亮一とじっくり
話をする時間を設けていたのだ。
浜松の姉・龍子(たつこ)は幼い頃から
利発・思慮深いで両親の
信頼を得ていた長姉である。
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