灯り燈せば…

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東京駅から会社の車で、 春紀は、まず、今、自分が 手掛けている桜上水の住宅へ 亮輔を案内した。 「こりゃ立派な普請やなあ!」 「当然俺が描いた図面やないけど」 春紀は続き間の和室の戸を開けて 「この押入れの案と細工は  俺が考えたんや」 着物入れの仕舞い箪笥と その箪笥の花模様の細工を 故郷の言葉で父に自慢した。 桜を花の彫り物を 「立派なもんやあ…  昔以上に腕をあげたな!」 指でなぞる亮輔は再び涙…。 (この器用さがシベリアで  足留めになったとは…) ブリザードに迷ったような亮一(春紀)の 数年を思うと、涙の枯渇がない 亮輔であった。
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