灯り燈せば…

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樹をたいそう気にいっていた。 「手先の器用な子でなあ、  あれは、亮一以上の細工師に  なれると思いますわ」 帰りに樹がくれた小鳩の楊枝入れを 龍子に見せた。 「あれ?!(とお)過ぎた  ばかりでこれだけの彫り物を  出来るなんて!不思議なもんやなあ、  血の繋がりより暮らしなんかなあ」 龍子は小鳩を掌に抱いて 眺めながら… 「さて…この話、亮一が生きていて  家の事情を知ってから、東京で  別人になってしもうたこと…。  いつ、衣玖ちゃんに言うか…」 「ワシもそこが悩みどこなんや。  東京行く前に言おうとしたら  かず子が三人目を授かって」 「なあ…幸せに水みたいやもんね…  あ、水なんてこと…亮一に  申し訳ないわ!アカンアカン!  ああ、ごめんなさい」 「いや、姉さん…やはり  そうなってしまうくらい、  亮二夫婦に、亮一の存在を  伝えるのは…憚れる…。  ただ、せめて衣玖には…」 “自分達夫婦も六十を 越えているわけであるから、  亮一の元気な顔を衣玖が 知らずに旅立つようなことが 起こらないとは限らない“ …といったあたりが、 亮輔の悩みどころであった。    
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