灯り燈せば…

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日暮れの早まった寺、 即隆が檀家から戻ると 御堂の前にかず子がいた。 気付かれぬように そっと裏から堂に入る。 淀みない声が懺悔文を 唱えていた。 亮二と再婚してからのかず子は、 都合のつく日は必ず ここで経を読む。 亮一を弔うためか、 己れを鎮めるものか… それはかず子にも 見えぬところであろうかと、 即隆は見守る以外になかった数年。 (何れは知る事実を  この健気な女が  どう乗り切れるのか…) 憂するところの即隆。 いよいよ母親である衣玖も 東京へ出向かせて事実を 告げると、今朝は、亮輔から 打ち明けられた。 (御仏はどう皆を  導くのであろうか…) かず子の声に合わせ、 経に縋る即隆であった。
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