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笠岡亮二が、山の仕事場から
戻ってくると
「おかえりなさい」
子供達三人しかいなかった。
「お母さんは橋の向こうの
オバちゃんのトコへ
大根を持っていったよ」
「そうか…」
たま子には、亮二は
笑顔で答えたけれど、
(寺へ廻ってるんやろう…)
かず子の行動を、知っていた。
ピアノの部屋へ一人で入ると
つい、奏でてしまうのは『月光』
若い頃…兄・亮一と
月明かりの下…時の経つのも忘れ…
微笑み合っていたかず子を…
少年時代から見つめ続けた亮二。
戦争など無ければ…
音楽学校へ行って、音楽の教員に
なろうと思っていた。
遠い街で、誰かに恋して
初恋は思い出になると信じていた。
(俺が初恋を忘れられなかった
ように…かず子が兄貴を
忘れられないのは当然だ…)
…言い聞かせるように鍵盤を
叩き続けるのだった。
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