灯り燈せば…

25/27
前へ
/315ページ
次へ
初めての土地の夕暮れは 秋の風の音がした。 「東京駅を離れると  田舎でしょ?私、大阪しか  知らないんで、来る前は  怖かったけど、東京も  エエ処ですわ」 和ませてくれようと 隣で語りかけてくれる茜に 「さっき…“春さん”って…?」 「あ…笠岡亮一くんは  ここでは葛城春紀くんなんです」 運転しながら正は 遠慮がちに言った。 「名前まで…無くして…」 無表情だった衣玖の顔は歪んだ。 それから溢れ落ちる涙…。 九死に一生を得て帰った息子の その後の苦労を思いやると 衣玖は身を絞られるような 辛さに瞼をギュッと閉じた。
/315ページ

最初のコメントを投稿しよう!

112人が本棚に入れています
本棚に追加