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初めての土地の夕暮れは
秋の風の音がした。
「東京駅を離れると
田舎でしょ?私、大阪しか
知らないんで、来る前は
怖かったけど、東京も
エエ処ですわ」
和ませてくれようと
隣で語りかけてくれる茜に
「さっき…“春さん”って…?」
「あ…笠岡亮一くんは
ここでは葛城春紀くんなんです」
運転しながら正は
遠慮がちに言った。
「名前まで…無くして…」
無表情だった衣玖の顔は歪んだ。
それから溢れ落ちる涙…。
九死に一生を得て帰った息子の
その後の苦労を思いやると
衣玖は身を絞られるような
辛さに瞼をギュッと閉じた。
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