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たま子が部屋へ戻る背中に
「カステラを切ってきたわ」
母・かず子が声をかけた。
「二人で食べようか」
小さな弟達は亮二と風呂らしい。
こういう合間を縫って
たま子との語らいを
大切にしているかず子。
「浜松の伯母様から
紅茶も頂戴したんよ」
浜松の伯母とは亮輔の姉、
龍子のことを指すのだが
「この頃は、東京しか
手に入らんもんを
伯母様、たくさん
送ってくれるね」
薔薇の香りのする紅茶のカップを
鼻のところで愉しみながら
たま子が言うと
「ほんまやね…また何か
伯母様の好きな紀州物、
お礼に送らないかんなあ」
かず子も紅茶にひと心地…、
これは龍子ではなく
志保が銀座で選んだ品だった。
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