時は流れて…

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その紀州のたま子の ピアノ発表会用のドレスは、 芝山修三郎夫人・蓉子が 経営する洋品店で仕立て中であった。 “サロン・ド・オーロラ” ……復興と開発景気に 増えた富裕層の妻女が (こぞ)って注文に やってくるまでに成長した店は、 戦時中の傷が元で 歩くことが困難になった 前橋麻子(まえばしあさこ)という女が、 やはり戦争で生きる術を無くした 女達を率いて、デザイン・縫製、 蓉子のアイデアと資本力で 銀座の名店に仲間入りしていた。 「独立してやっていけば?」 蓉子に言われても 「私…ここが家だから」 天涯孤独の麻子にとって… 心の陰の消せない女達にとって 芝山屋敷の女子寮こそ “オーロラの部屋”であったのだ。
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