時は流れて…

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まだ少し間があるが 進学先を決めねばならない 時期までたま子は成長していた。 亮二の並々ならぬ保護のもと、 怪我ひとつ、病気ひとつなく 健やかに……したい勉強も 思う存分にさせて貰える暮らし。 「音大にいくなら   大阪の学校がエエけど」 「……音大は無理やわ、  私くらいの実力では。  鈴ちゃんは音大?」 「とーんでもない!  たまちゃんで無理なら  私なんて願書も出せん」 「でも、鈴ちゃん、  歌が上手やないの。  今度の発表会でも  独唱は鈴ちゃんだけやし」 「へへん!それは自信ある!  だから、私、宝塚音楽学校を  受けたいんだけどなあ」 道行く同い年の少年よりも スラリと伸びた背丈の鈴子に、 たま子は納得して何度も頷いた。   「音楽でないなら英語?  たまちゃんなら教員だって  向いてるよ、きっと」 「英語は確かに好きだけど…」 たま子は茶葉屋の 清涼に満ちた香りを すぅと鼻に吸い込んで 「私…“調香師”になりたい」 ……ポツリと言った。   
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