時代の春

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就職難は一転 “金の卵”と称される 青少年が都会へと 労働者として流れて来る昨今。 「取引先のアチコチで  年若い子を見かけるよ」 「ちょいとした労働争議も  起こってる工場もあるらしい」 正が小声で言うと 春紀も小さく頷いた。 戦中人間には悲しい癖がある。 政府や世情を悪く言うときは ついつい小声に… 言論統制の時代が 身に沁み込んでいるのだ。 そんな二人の前を 高校生だろうか… 肩を並べて談笑しながら 歩いている男女の姿が…。 「俺たちも年経()って  ゆくんだなあ」 「ああ」 『ああ』と同調する春紀の胸には (たま子も恋する年頃に  なっているだろうなあ) ……郷愁が漂った。
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