時代の春

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盆の一日を 戦友の供養に費やし、 正や加藤と精進上げさながらに 駅前で酒を煽り… 今や笑い話すら出る シベリア労働と 凍てた大地が 映画の一コマのように過る。 「駅のホームなんかで  寒い日に若いヤツが  『足が冷たくて立っておれない』  なんて言うのを聞くと、  つい笑っちまうんだなあ、  俺達、収容所の床が凍って  立って寝た夜もあったから」 正が言うと 「ああ…彼処から帰って  港に着いて大阪の街を見た時は  浦島太郎の気分だった…」 活気と人波に酔う程だった あの夜のことを 春紀はよく覚えていた。
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