時代の春

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「そうだ…」 「どうしたんだい?春さん」 「あ、いや…ちょいと  思い出したのさ、昔を…」 そんなところで話を決着して 程よいところで自宅へ帰った。 「おかえりなさい」 二階からは樹の声、 「おい、まだ勉強かい?  夏休みなんだ、もう  漫画でも読んで寝ろよ」 「はーい」 明るい返事で戸が閉まり、 「お酒が入ってるから  (ぬる)湯にしたわ。  軽く汗を流して」 志保がその間に茶漬けの用意。 眠る紀子の頬を撫でた。 (そうなんだ…もうここが  自宅なんだ…何を今更…  “出した手紙の行方”なんか  思い出してなんになる…  どうせ戦後のドサクサに  届かず終いだったのさ…)   過去を流すように春紀は、 贅沢に湯を何度も 頭から被って首を振った。 帰還してすぐ、舞鶴港から 春紀は、かず子宛に手紙を出した。 確かに投函した。 なのに手紙は 届いた様子はなかったのだ。
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