時代の春

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春紀が思い出した “届かず終いの手紙”について 悩みながら病いの床につく男が、 紀州和歌山市内の病院にいた。 男の名は水上(みなかみ)、長らく 春紀の故郷・かつらぎにて 郵便局長を務めた男。 「どうや?具合は?」 見舞いに来た即隆に 「棺桶に片足突っ込んだまま  もう一本、イコかヤメよか…  悩んどるとこや…ハハ…」 痩けた頬で水上は笑った。 そして… 「すまなんだなあ…  こんなとこまで呼び出して…」 「嫁(奥)さんは?」 「買い物に行かせた…。  ちょっと聞かれたない話やから」 「なんや?女の後始末か?」 「ハハハ…そんな色気のある  話やったら…構わんのやが…。  もうこの歳や、気がかりなんぞ  ないんやけど、一つだけ  シックリいかん事があって…」 「なんや?」 「笠岡の長男のことや…」 「 ・・・・・ 」 「…生きてるはず…なんやけど」 即隆は目を見張った。
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