時代の春

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「あれは…笠岡の次男坊が  戦死したとされる兄の…  嫁さんと籍を直した(結婚)年、  梅雨時に嵐があったやろ?」 「ん…そんなこともあったか…」 なるべく表情を出さぬよう… 即隆は夏蜜柑を剥いて 口に入れた。 「車が…郵便物の入った車が  溝に嵌ってしもたんや…  慌てて局員皆で郵便物を  かき集めて…他に  落としてないかもちゃんと  ちゃんと何回も見た。のに…  一週間ほどして泥まみれで  溝から出てきた一通の手紙。  グチャグチャになって  封もきれんような有様に  なってたけど、差出人は  薄っすらと“笠岡亮一”と…  急いで笠岡の家へ  走ったんやけど…  門のところでかず子さんの  “大きな腹”見て…見て…  ワシ…なんや…怖うなって…。  そのままにしてしもた…」 水上は新聞紙に包んだ手紙を 即隆に差し出した。      
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