冬 の 影

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シベリアから帰還した春紀が 潜んでいたことも知らず、 “おばけ”が会いにきてくれたと 記憶に残る父親の匂いを頼りに 鼻を利かせていた 幼い日のたま子が 脳裏を掠めると… 目頭が熱くなる即隆であった。 それは、早朝出掛けたたま子を こっそりと追っていた かず子も同様、 境内の陰から二人の様子を 見つめていたのだ。 「あ、何処かで焼き芋、  焼いてるんかも?  匂いがするぅ」 「たま子の鼻は絶品やなあ。  裏でワシの妹が焼いとる。  食べていけ」 「フフフフ、得した」 「その鼻は将来役に立つ」 「うん、そんな仕事、  してみたいなあ」 「ん?どんなんや?」 「自分で香りを作ったり  する仕事、私、綺麗な  白粉とかに百合の香りとか  付ける仕事に憧れてる」 「ほう…」
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