序章  帰 還

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「戦死の公報が入ったのは  終戦の年の春やった。それでも  かず子さんはたま子を  育てながら家族にも尽くして  お前を待ってた、ホンマや。  毎朝ここで『明日こそ』と  御百度踏んで・・・・  願を懸けておったから・・・。  それでも常でならんが世の中、  お前の弟・亮二に縁談がきた時  『結婚したいのは義姉さん、   かず子さんだけや』と  言い出したのは一昨年やった」 成り行きを話してくれた。 たま子を溺愛している両親は たま子を失うこともなく 家が栄えるなら…ならば …やむなしと承知。 「かず子さんは随分長い間  ここでたま子を抱いて  黙って毎日考えておられたわ。  今更実家へ独りで戻ることも  たま子を連れて出るも  ままにはならんのやから」 かず子に生母はもうなく、 後妻の産んだ弟が、 跡を取っていたから 実家に帰る選択のないのは ・・・理解できた。      
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