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その峰が続く紀伊山地の麓、
かず子は第二子との体調も順調に
たま子と長男の成長を慶びに
毎日を過ごしていた。
「たま子がもうちょっと
もうちょっと言うもんやから
半ばまで飾ってしもうたわ」
先祖伝来の雛壇の片付けを
しぶしぶするたま子を
笑いながら、かず子は
初めてこれを飾った日の
亮一の笑顔を思い出していた。
あの時も
『仕舞う必要はない。
嫁にはやらん!
婿養子を取るんやから』
亮一はそう言いながら
たま子を膝から下ろさなかった。
(あの亮一の愛情を…
たま子が忘れられる
ことなど…出来はしない)
今年のひな祭りの菓子も
“お供え”に行ったたま子を
かず子は…やはり承知していた。
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