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夏 嵐
初夏に入った。
「ネクタイが暑いな…」
つい独り言が漏れる蒸し暑さ。
「オシボリを冷やしましょう」
志保は、麦湯のヤカンを冷やした
タライから氷を少し取って
洗面器に手拭いを数枚冷やした。
春紀だけでなく作業員や
事務方にまで気遣いの良い女だから
素早く冷えた手拭いを配る。
高輪の現場は、この志保独りが
いるだけで、随分小綺麗で
明るい毎日だった。
大抵は夕暮れに
連れ立って帰るのだが
春紀達が忙しい日には
陽の高い内に電車に乗せる春紀。
代々木上原界隈では最近、
数名の若い不良等の
質の良くない噂が
あったから。
「なるべく複数の人に
紛れて帰るのだよ」
春紀が声をかけると
「わかりました」
素直に頭を下げてゆく志保。
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