序章  帰 還

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和尚は独り暮らし、 世話にくる妹は 朝来たら昼には帰るので 潜むには丁度よかった。 ただ “潜む” ・・・? なんで俺が潜まんとならんのや! 怒りで寝付けないまま明け方、 読経を聴いて昼・・・ 和尚の妹が帰るまで ただ横になってた。 「蝉時雨か・・・」 経に交じって生を貪る 短命の蝉が 煩いやら・・・・・・ 憐れやら・・・・・・。 憐れ・・・憐れやないか、 『いけ!』と命令()われて 戦地へやられ、放り出されて 寒いとこで働かされて ・・・それでも、それでも 家族が待っててくれると 信じていたから、極寒の地に 指が千切れそうな目に()うても 辛抱してきたんやあ・・・。 悔しさに身悶えしても 無くした月日が 何処にも・・・・・・何処にも ないやないかあ・・・・・・。
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