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寛子目当ての克也は
ここが、早晩、調布へ
移動することを
誰かに聞いたようで
ここのところ、何かにつけて
足繁く、顔を出していた。
「カッチャンの御両親も
寛子で申し分ないと
言ってくれてるんだけど」
寛子の父親・佐渡は
やや困り顔で娘を見つめる。
「こんなに想われているのだもの。
寛子ちゃんだって気持ちは…」
蓉子が指す視線の先に
被り物の中から
小さく漏れる寛子の微笑は
春紀にも見えた。
「でも、女が…ましてや
若くて、あんなに可愛い
娘さんが…顔の火傷を
乗り越えるのは…並みでは」
志保の言葉に頷く蓉子。
(本人が越えるしか
試練は克服できないのだ)
改めて春紀は思った、
この戦後にいる、ここにいる人間は
各々の試練を、自分が越えるしか
明日は来ないのだと。
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