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資材調達のため、
春紀が北関東への出張へ
入ったのは八月末だった。
(山間はかなり
暑いんだなあ)
気候穏やかな紀州育ちの春紀には
いささか蒸し風呂のような
坂東も山の麓の町。
かといって…
(夜には冷え込むんだ…)
気候の妙に出遭い、ふと…
(シベリアも不可思議な処だった)
もっとも、寒さばかりが
記憶にこびりついて
夏の白い花を思い出そうとも
記憶は曖昧になっていた。
「ここは春先には
カタクリが咲きます」
地元の社員が教えてくれたカタクリ。
その花を描いて貰った紙に
志保への手紙を……
『いつかあなたと見に来たい』
書こうか…書くまいか……
思案の旅の宿には
せっかちな秋の虫が…
・・・・・鳴いていた。
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