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「なんだよ、こんな“バケモノ”を
ヤリ損ねて、捕まるなんてよ!」
負け惜しみを吐いた。
当然、殴りかかろうとする克也だが、
その男に一撃を加えたのは
“暴力はいけない”
と言ったはずの警官だった。
周囲が静まりかえるほどの
沈黙の中心で、殴られた男は
潰れた鼻を抑えて呻いた。
「連れてけ!」
打って変わった冷たい言葉が
警官から漏れた。
そして…克也の胸から響く
寛子の啜り泣き。
寛子の被り物を見つけた警官は
それに付いた汚れを払いながら
「…ウチの娘もね…空襲では
顔を…ヤラれてね…
ハハハ、つい、つい殴っちまった」
寛子にそっと手渡した。
戦地に居た者だけが
傷ついたわけではないのだと…
故国も傷つき…痛みに疼きながら
新しい世を生きているのだと…
春紀達は改めて思った。
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