夏  嵐

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「寛ちゃん…  上向いて…」 克也は両手で寛子の顔を包んで 自分に向かせた。 「寛ちゃんは“バケモノ”  なんかじゃない!!  寛ちゃんは寛ちゃんなんだ。  俺の大好きな寛ちゃんなんだよ!  ずっとこうして俺を見て  笑ってくれてたらいいんだ!」 薄闇の空を抜ける克也の声。 「いいの?私で…  こんな私でいいの?」 「寛ちゃんがいいんだよ!!」 二人が抱き合うと、 こんなにいたのかという程に 近所の人々が集まっていて、 「おめでとう」の声と拍手が 若い二人を後押ししていた。 そこに静かに紛れていた樹と志保。 身体中泥だらけで 薄く背中のシャツに 血が滲んでいても微笑む樹を 春紀は力の限り抱き締めた。 「偉かったぞ、樹。  お前は男の中の男だ」 そして、志保の手を引いて 樹と一緒に自分の胸に収めた。 「これからは僕が  全力で二人を護る」 見上げると夕焼け… 春紀は再びの人生を… 明日の希望へと繋いだ。
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