春を待つ日々

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翌日高輪の住宅現場で 春紀は一枚の絵を 大工達に見せた。 「押入れに箪笥?ですかい?」 「そうだ。上に寝具で  下が物入れになるにしても  ほんの五段ほど、主婦が  自分の大切な着物なんぞを  仕舞っておいて、簡単に  出せる設えだ、もちろん  桐の上物で、要望があれば  家紋も彫る」 「家紋?!」 「ああ、ここはそんなに数の  ある現場でないのだから  僕が彫るさ」 暇に乗じて彫ってみた 薔薇や梅、桜の小さな細工を 春紀は取り出した。 「こりゃまた、」 「綺麗!」 大工の言葉を遮って 志保が声をあげた。
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