春を待つ日々

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「豪邸ですね」 「そんなに広くはないけれど  柱も最高級だし、洋間には  西洋風出窓。ガラスは  長崎に特注の贅沢品だ」 「造船会社の社長さんが  お住まいになるんですって?」 「ああ、奥様との終の住処に」  二人で部屋を見て廻り 二階のバルコニーに出た。 丸い月だけが、こちらを見ている 静かな秋の夕べ。 「さっき電話で、押入れの箪笥、  注文が入ったよ、家紋付きで」 「そりゃそうなさいますとも!  女には嬉しい贅沢だもの」 志保の瞳が少女のように 煌めくものだから 春紀の胸は、少年の如く高鳴った。
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