春を待つ日々

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慎ましやかな女の言葉は 春紀の手を…自然に伸ばしてしまう。 ゆっくりと腕の中に誘うと 小さな志保の身体は すっぽりと大きな春紀に包まれた。 けれども、包まれているのは (俺の心だ…) 遠いシベリアで凍てついて 故郷で溶かされるどころか 更に固く凍ってしまった心が 今…ようやくに… 軟い湯に浸される…。 全てが溶けるわけではないが 今、ここまできたことが 春紀はこの上なく嬉しかった。 女独りで、子供と、戦後を渡ってきた 志保も同じ気持ちだったのだろう。 だから…春紀が唇を求めると いつまでも背中にまわした両腕を 離すことなく、春紀に 応え続けていた。
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