雨の日にバグる国

6/7
前へ
/7ページ
次へ
 では、最後にこのシーンを見ていただこう。  とある病院にて。  女性が大量の汗を流しながら、大きな叫び声を上げている。  この女性は妊婦で、今にも赤ちゃんが生まれようとしていたのだ。 「さあ、あともう少しですよメアリーさん! 頑張って!」  赤ちゃんの頭が見えてきたため、助産師はメアリーという女性にそう声を掛ける。 「あ゛ああ゛ああ゛!!」  襲い来る痛みに彼女は必死に耐える。  そして、 「ぷはー! やっと出て来られたわ!」  ようやく生まれてきたのだ。 「おめでとうございます! 赤ちゃんさん! 元気なメアリーさんですよ!」  メアリーが。  身長160センチ、体重48キロ、二十四歳の元気な女の子であった。生まれながらにして病衣を身に纏っていた。  赤ちゃんは「おぎゃあ」と返事をして立ち上がり、助産師からメアリーを受け取る。  赤ちゃんと夫は、メアリーの誕生を喜ぶ。  「よく頑張ったな」と夫は赤ちゃんを褒め、赤ちゃんは「おぎゃあ」と言ってドヤ顔をする。  おわかりいただけただろうか。  この病室で起きた可笑しな現象を。  メアリーが赤ちゃんを産んだはずだったのが、いつの間にか赤ちゃんがメアリーを産んだことになっていたのである。  しかも、赤ちゃんは生後間もないのに立ち上がって、自分より体重の重いメアリーを抱えたのだ。  これも、雨の日に起きるバグなのである。  親と子の立場が逆転する。そんなことが起きてしまうのだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加