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「遥香、ごめん。私、遥香が期待するほど大人じゃない」
不思議そうに私を見つめる遥香。私はもう一度、立ち上がり、バッグと空になったシャンパンボトルを手に取った。小走りで高砂席に向かい、今度は長テーブルの上でボトルを叩き割った。地味に飛び散る破片。駆けつけてきたスタッフが私を取り押さえる。
後輩は、羞恥と怒りで震えていた。この式場に決まっていたことを一ミリも疑問に思わなかったとしても、一生の一大イベントである結婚式を台無しにされたのだから、当然の反応だろう。
別れたことになっていた男の顔は見られなかった。今更見たくもなかった。できれば私の前から、一生、消えていてほしい。
会場の外へおとなしく連行されてはいたが、心のなかはひどく冷静だった。なんなら、いつもより冴えているかもしれない。アロマが焚かれている小部屋に案内され、手厚くなだめられた私は、自分で二番目の兄に連絡をして、迎えに来てもらった。
結婚式場のスタッフは、タクシーが見えなくなるまで頭を下げていたらしい。兄が実況中継するのを、うつむきながら聞くことしかできなかった。彼らが私に危害を加えたわけではない。迷惑をかけたのは私なのである。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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