レインマン、サニーレディ

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 飛び込んだすぐ近くの喫茶店は、若い女の子向けの可愛らしい内装だった。  ピンクと白の壁紙に、至るところにある猫のキャラクター。  男性の斎は少々浮いていた。 「何ていうか……雨やんだら、すぐ店移ろうか」  店内を見回し彩子は言った。 「……いやいいけど」  店内の客は、若い女性や女子高生ばかりだ。  居心地が悪いのを堪えているような表情で斎は言った。  運ばれて来たサンドイッチを一枚ずつバラバラにし、中に挟まれているものを念入りに確認してから元に戻す。  相変わらずだと彩子は思った。  雨男の斎は、常に(かび)の生えやすい環境で過ごしているので、食べるものはこうして細部まで確認してから食べる。  一緒に暮らしている間は、食材の保管の仕方に非常にうるさかった。  その上で、出来ることなら(かび)の生えにくい食材を選んでくれと言われた。  別れる前の数週間は、喧嘩ばかりしていた気がする。  行く先々が常に晴れている彩子は、あまり(かび)を気にしたことがなかった。  食材で気にするのは、せいぜい乾燥するかしないかくらいだ。  それを斎は、ズボラなんだと言った。  洗濯物を干すときも違っていた。  晴れ女の彩子は、急な雨で急いで洗濯物を取り込むなどという経験がなかった。  斎が休みで家にいる日は、必ず俄か雨に降られた。  降っているのを知らずに干していたと毎回くどくど言われた。  一緒に住んでいれば一番幸せなはずの休日に、いつも洗濯物のことで喧嘩になった。  掃除の考え方も。  彩子が常に気にしていたのは、(ほこり)が部屋に溜まることくらいだ。  掃き掃除を一番マメにする方だった。  斎は違っていた。  じめじめとした環境で、物に手脂が付くのを嫌い、常に拭き掃除用のウェットティッシュを用意していた。  防黴剤(ぼうかびざい)の類いは常に一式揃えられ、洗面台の下の小物置場には、防黴(ぼうかび)スプレー、防黴燻煙剤(ぼうかびくんえんざい)防黴(ぼうかび)洗剤、防黴(ぼうかび)芳香剤、防黴(ぼうかび)シート、(かび)抑制プレート、(かび)取り剤がぎっしりと並べてあった。  それを全て的確に使いこなす斎が、別れる間際には、もはや家事の手抜きを責め立てる悪魔に思えた。
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