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↓砂時計・下
あの日の雨は既に降り止んだ。だが、雨の流し去ったものは二度と戻らなかった。抉られた部分は、時間の経った今なお大きな傷跡となって痛みを与えている。
連れていかれたものたちと残されたものたちの耳にはまだ雨が降り続いているのである。あの日と同じように激しい雨が。
あの日のように、雨が降る。しとしとざあざあごうごうと、雨が落ちてくる。あの日のように、全てを奪い去る雨が降ってくる。
空は晴れ、人々には笑顔が戻ってくるのだろう。しかし、心のどこかでは雨は降り続いているのである。
雨はやむことがないのである。
雨音は、やむことがないのである。
最期の瞬間、人はなにをおもうのだろう。
一度雨によって大切なものを奪われた人は、きっと雨の夢を見るのだろう。永遠にやむことのない雨の夢を見続けるのだろう。
今宵はよく晴れた満月の夜。
砂時計からはいつかの雨音がきこえている。
さらさら流れる砂時計。
今宵は雨音、流れる砂時計。
雨音をきくのは、砂時計の中で眠る人だけであった。
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