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「浅倉絢人といいます。今日から宜しくね」 好奇心で一杯の、子供達からの視線を浴びる。悪い気はしない。これから始まる生活に、わくわくが止まらない。 絢人が働くことになったのは、そこまで広くない孤児院だ。常に里親を募集しており、暖かい家庭を待ち望む幼い孤児が集まっている。10人ほどの孤児の面倒を見ているのは、40代半ばの女性1人だけ。名前は佐野(さの) ()(おり) というらしい。 佐野は小さい子供や人助けが好きで、自分1人で孤児院を始めたそうだ。幾らかまわりの人の助けも借りたが、最近は金欠で困っているらしい。たった1人で10人の子供の面倒を見るのは大変だが、充分な給料を払えない為人手を雇うのは難しかったそうだ。 だから、絢人の仕事の給料は低い。でも、絢人はそんなこと気にしなかった。自分も元孤児だ、孤児の役に立つことができるのならばそれで良い。会社で働いていた時期の貯金もある。問題はない。 絢人の前に座っているのは、2歳から10歳の孤児。横には佐野。絢人はみんなに呼びかけた。 「えっと、何か質問がある子はいないかな?」 「はい!質問です」 10歳くらいの女の子が手を挙げる。洋服には「Rinna」と刺繍が入っている。絢人が「何?」と訊く。 「絢人さんは、何歳ですか?」 「25歳だよ」 「ええぇーっ!」 ざわめく子供達に、佐野がぱんぱんと手を叩いた。 「こら、あんまり騒がないの」 「あ、あはは…別にいいですよ、佐野さん。僕、どうしても年上に見られがちなんです」 「あら…確かに、そうね」 佐野が絢人を見る。絢人は苦笑した。
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