1/1
前へ
/10ページ
次へ

自己紹介が終わり、「お父さん」と呼ばれることになった絢人は、早速佐野に孤児院について詳しい説明を受けた。孤児院の内装はこじんまりとしていて小綺麗な印象だ。外観も質素で、自然の香りがする木造の2階建て。1階は食堂と、子供達の遊ぶスペースや勉強場所で、お風呂とトイレがある。2階は子供達の寝室と、佐野の部屋。空き部屋がひとつあったので、絢人用にと貸してもらえた。 「清潔感があって、良いですね。この孤児院」 「ありがとうございます、お父さん。毎日みんなで掃除しているんですよ」 今や佐野までも、絢人のことをお父さんと呼ぶようになってしまった。最初はなんだか微妙な気分だったが、あだ名というものは呼ばれるにつれ愛着が湧くものだ。『お父さん』というあだ名を、絢人はすっかり気に入っていた。 お父さんとしての、孤児院生活。自然と笑顔になる絢人に、「ほら」と佐野が声をかけた。 「ちょうど、あの子が掃除をしているわ」 窓をぴかぴかに磨いているのは、中学生くらいの女の子だ。15歳くらいだろうか?孤児の中では、1番年上だろう。 「中学生の子もいるんですね。僕の自己紹介の時には、いませんでしたよね」 「…ふふ。実はあの子、まだ小学5年生なんですよ」 「ええっ!?まだ小学生!?5年生っていうと…11歳!?随分と背が高いですね!」 「私もそう思います。ねえ、(はね)()ちゃん~。お父さんにご挨拶なさい」 佐野の声に、羽香が顔を上げる。表情は凛々しく大人びていて、とても小学5年生には見えなかった。背は160cmくらいあるように見える。170cmの絢人と、大して変わらない。 「お父さん…?」 「ああ、本名は浅倉絢人さんね。今日から、この孤児院で働いてくれることになったの。羽香ちゃんも、自己紹介して」 「あ、そうなんだ。宜しくね、東雲(しののめ) 羽香だよ」 そう言って微笑む羽香の声には、幼さとあどけなさが混じっていて、小学5年生なんだと納得できるものだった。だが、容姿は中学生のようにしか見えない。高校生だと名乗っていても、ばれなさそうだ。 「浅倉絢人です。みんなからはお父さんって呼ばれてるんだ。25歳だけど、年上に見えるでしょ?」 「うん!仲間だねぇ。あたしも、年上に見られるよ。これでも小5だからねっ」 「うんうん、仲間だね」 それから少しの間、絢人と羽香は立ち話をした。話を終える頃には、2人は仲間意識や親近感ですっかり意気投合していた。 「仲良くなれたみたいで良かったです。羽香ちゃんは面倒見が良いから、よく小さい子の世話をしてくれるんです。助かりますよ」 「へえ、それは素敵ですね」 羽香と別れた後の佐野の話に、絢人は感心した。この孤児院は、明るくて暖かい。うまくやっていけそうだ。絢人はほっと安堵した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加