9人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅲ
自己紹介が終わり、「お父さん」と呼ばれることになった絢人は、早速佐野に孤児院について詳しい説明を受けた。孤児院の内装はこじんまりとしていて小綺麗な印象だ。外観も質素で、自然の香りがする木造の2階建て。1階は食堂と、子供達の遊ぶスペースや勉強場所で、お風呂とトイレがある。2階は子供達の寝室と、佐野の部屋。空き部屋がひとつあったので、絢人用にと貸してもらえた。
「清潔感があって、良いですね。この孤児院」
「ありがとうございます、お父さん。毎日みんなで掃除しているんですよ」
今や佐野までも、絢人のことをお父さんと呼ぶようになってしまった。最初はなんだか微妙な気分だったが、あだ名というものは呼ばれるにつれ愛着が湧くものだ。『お父さん』というあだ名を、絢人はすっかり気に入っていた。
お父さんとしての、孤児院生活。自然と笑顔になる絢人に、「ほら」と佐野が声をかけた。
「ちょうど、あの子が掃除をしているわ」
窓をぴかぴかに磨いているのは、中学生くらいの女の子だ。15歳くらいだろうか?孤児の中では、1番年上だろう。
「中学生の子もいるんですね。僕の自己紹介の時には、いませんでしたよね」
「…ふふ。実はあの子、まだ小学5年生なんですよ」
「ええっ!?まだ小学生!?5年生っていうと…11歳!?随分と背が高いですね!」
「私もそう思います。ねえ、羽香ちゃん~。お父さんにご挨拶なさい」
佐野の声に、羽香が顔を上げる。表情は凛々しく大人びていて、とても小学5年生には見えなかった。背は160cmくらいあるように見える。170cmの絢人と、大して変わらない。
「お父さん…?」
「ああ、本名は浅倉絢人さんね。今日から、この孤児院で働いてくれることになったの。羽香ちゃんも、自己紹介して」
「あ、そうなんだ。宜しくね、東雲 羽香だよ」
そう言って微笑む羽香の声には、幼さとあどけなさが混じっていて、小学5年生なんだと納得できるものだった。だが、容姿は中学生のようにしか見えない。高校生だと名乗っていても、ばれなさそうだ。
「浅倉絢人です。みんなからはお父さんって呼ばれてるんだ。25歳だけど、年上に見えるでしょ?」
「うん!仲間だねぇ。あたしも、年上に見られるよ。これでも小5だからねっ」
「うんうん、仲間だね」
それから少しの間、絢人と羽香は立ち話をした。話を終える頃には、2人は仲間意識や親近感ですっかり意気投合していた。
「仲良くなれたみたいで良かったです。羽香ちゃんは面倒見が良いから、よく小さい子の世話をしてくれるんです。助かりますよ」
「へえ、それは素敵ですね」
羽香と別れた後の佐野の話に、絢人は感心した。この孤児院は、明るくて暖かい。うまくやっていけそうだ。絢人はほっと安堵した。
最初のコメントを投稿しよう!