IV

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IV

「う~っ、なんだか緊張したぁ~…」 羽香はベッドにダイブした。シーツに埋もれながら何度か寝返りをうち、考え事をする。絢人と別れ掃除を終わらせた羽香は、休憩をする為に寝室に来ていた。 絢人の自己紹介は、部屋の外で途中から聞いていた。お父さんと命名されたことは知らなかったが、羽香は珍しく緊張して胸の高鳴りを覚えた。 学校で友達から聞いたことがある。赤くなってドキドキしたり、誰かに特別なときめきを感じたら、それは恋なのだと。だが、その相手が25歳で見た目は35歳の絢人?自分でも気持ちが追いつかない。でも、これはきっと一目惚れだ。 絢人との話は楽しく弾んだ。年上に見られやすい同士ということもあり、数分で打ち解けた。この恋が叶わなくても、絢人と仲良く話せたら別に良い。そんな気持ちも生まれた。 こんこん、と寝室のドアがノックされる。ベッドから起き上がり、羽香は「入って」と声をかけた。ドアを開けたのは、孤児の中では羽香の次に年上で、小学4年生で10歳であり恋バナ好きで有名な、女の子の(つき)(しろ) (りん)()だ。 「どうしたの?」 「あのさ、佐野さんの地元のお友達の人がここに来てるらしいよ。お菓子を持ってきてくれたんだって。羽香ちゃんも見に来てよ」 「そうなの?わかった、今行く」 ベッドに寝転がり乱れた髪を小さな鏡で整え、羽香は凛那と共に階下におりた。正面玄関に、1人の男性が立っている。佐野が彼を出迎えていた。 「久しぶり、藤下(ふじした)くん。さあ、中に入って」 「お邪魔するよ、佐野さん」 佐野と藤下は、中学校時代からの同級生らしい。仲が良い為、たまに藤下は佐野の仕事の手伝いに来てくれるそうだ。藤下は親が経営していた店の跡を継いだので、孤児院につきっきりで働くことはできないらしい。 「なになに?藤下さんっ。お菓子くれるの?」 「藤下さん、お話しよー!」 子供達に人気な藤下は食堂の椅子に腰かけると、持参した紙袋からお菓子の箱を取り出した。早速子供達が箱の蓋を開ける。そこには、バームクーヘンが入っていた。 「わ~!美味しそう!」 「ありがとう藤下さん!」 羽香と凛那も目を輝かせて、藤下にお礼を言った。お腹がぎゅるぎゅると鳴る。今はちょうど午後3時、おやつの時間だ。 「みんなで食べましょうか。お皿の準備手伝ってね」 「うん!」 嬉しそうな子供達は佐野に連れられキッチンへと歩いていったが、羽香は踵を返した。凛那に呼び止められる。 「どうしたの?」 「お父さん探しに行ってくるよ!たぶん今、自分の部屋にいると思うんだっ」 「そっか。行ってらっしゃい」 恋が叶うといいね、と凛那にウインクされ、羽香は赤面した。この気持ち、彼女には見抜かれているらしい。
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