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Ⅴ
案の定、絢人は部屋にいた。羽香は絢人を連れて食堂に戻って来た。
「いいね、バームクーヘン。僕、甘いもの好きなんだ」
「あたしもだよ。甘党なんだ」
2人には共通点が多い。羽香は嬉しくなった。
子供達により机にはお皿が並べられ、その上には佐野がそれぞれカットしたバームクーヘンが乗っている。ミルクチョコレートで一部がコーティングされたそのバームクーヘンは、食べてみると本当に美味しかった。
藤下のサプライズで、実はもう1箱お菓子の箱があった。中身は同じバームクーヘン。またいつか食べようと約束し、箱は冷蔵庫に閉まった。
藤下が帰ると、子供達は遊んだり勉強をしたりと盛り上がった。
「にぎやかだねぇ。心が和むよ~」
ソファに座ってリラックスする絢人の隣に、羽香は腰かけた。凛那から横目で応援され、なんて達観した小4なんだろうと白旗を上げたい気分になる。
「でしょ?みんな元気でさ、あたしついてけない時あるんだ~。歳かな」
「ははっ、まだ11歳だろう?でも、小さい子についていけないのは、ちょっとわかるよ。僕も小さい子が多い孤児院出身だから」
「そうなんだ」
まだ11歳、という言葉が羽香の心に突き刺さり、ずきりと心が痛む。あくまで絢人と羽香は親子のような関係だ、年齢差のせいで恋が叶うことは絶対にない。事実を再確認されたようで、途端に羽香は悲しくなった。
「それにしても、バームクーヘン美味しかったよね」
絢人の言葉に、羽香は頷いた。
「うん!絶品だよ、あれは!また食べれると思うとすっごく嬉しい!」
素直に笑う羽香に、絢人も笑った。それを遠くから見ていた凛那は、思わずニヤニヤしてしまう。
「凛那ねーちゃん、勉強教えてよー。なんで笑ってんのー?」
年下の男の子2人に怪訝な顔をされ、凛那はハッとして勉強を再開した。
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