1/1
前へ
/10ページ
次へ

「本当にいいの?」というのが、凛那の率直な疑問である。 羽香はその里親に引き取られることになった。子供に恵まれなかったが、とても優しい夫婦だ。持ち前のフレンドリーさで羽香は夫婦と打ち解けた。 羽香は両親がいないことで、学校ではいじめられることがしょっちゅうあった。だから、両親を手に入れることは何よりも大切で、絢人と離れ離れになってしまってもしょうがないと思っていた。この夫婦が自分の両親になるのだと思うと、嬉しくて涙が出そうになる。もうすぐこの女は自分のお母さんになる。もうすぐこの男は自分のお父さんになる。…お父さん? 「羽香ちゃん。もうすぐお別れだね」 絢人は少し寂しそうな顔をして、羽香に近づいてきた。横に腰かけ、羽香の顔を見る。 「里親さんが見つかって、本当におめでとう。僕はちょっと寂しいけど、それ以上に君のことを祝福するよ」 「…うん。ありがとう」 お父さん。それは、絢人のことにしか思えない。あの夫婦の男が、お父さん? 羽香がお父さんとして慣れ親しんできたのは、絢人ひとりだけだ。だから、違和感や複雑な気持ちを感じる。でも、念願の両親が手に入るのだからこれで良い。そう思い込んだ。 「幸せになってね!」 絢人は羽香の頭を撫でた。そっと、優しく。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加