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Ⅶ
「本当にいいの?」というのが、凛那の率直な疑問である。
羽香はその里親に引き取られることになった。子供に恵まれなかったが、とても優しい夫婦だ。持ち前のフレンドリーさで羽香は夫婦と打ち解けた。
羽香は両親がいないことで、学校ではいじめられることがしょっちゅうあった。だから、両親を手に入れることは何よりも大切で、絢人と離れ離れになってしまってもしょうがないと思っていた。この夫婦が自分の両親になるのだと思うと、嬉しくて涙が出そうになる。もうすぐこの女は自分のお母さんになる。もうすぐこの男は自分のお父さんになる。…お父さん?
「羽香ちゃん。もうすぐお別れだね」
絢人は少し寂しそうな顔をして、羽香に近づいてきた。横に腰かけ、羽香の顔を見る。
「里親さんが見つかって、本当におめでとう。僕はちょっと寂しいけど、それ以上に君のことを祝福するよ」
「…うん。ありがとう」
お父さん。それは、絢人のことにしか思えない。あの夫婦の男が、お父さん?
羽香がお父さんとして慣れ親しんできたのは、絢人ひとりだけだ。だから、違和感や複雑な気持ちを感じる。でも、念願の両親が手に入るのだからこれで良い。そう思い込んだ。
「幸せになってね!」
絢人は羽香の頭を撫でた。そっと、優しく。
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