そして今日もまた。

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少女は、笑っていた。 今まで見たことのない…いや、過去の記憶で、俺がこの子と所帯を持った時の記憶にあった笑顔だ。 「……」 それは、屈託のない、紛れもない顔だ。 俺は……。 「やっと…ここまで来た…。」 「そうじゃな。…では聞かせてもらおうかの」 それは『この世界の仕組み』というやつだ。 かつて、俺はあと一歩のところで暴けなかった秘密だ。 それは…。 「お前が作り出した世界…なんだろう?」 女の子…いや、加神 優佳(かがみ ゆうか)は、ほんの少しだけ笑ったように見えた。 この名前は、かつての記憶の中にあったものだった。 「正解じゃが…それだけではないだろう。なぜこの世界が作り出されたのか、分かっておるじゃろう?」 「それは、この世界の危機…、それに俺は呼応するかのように、この世界とは全く違う世界から呼ばれた…。お前…いや、優佳に。」 優佳は頷くことも、否定することもなく…どうしようかと迷ったように考えている。 しばらくの沈黙のあと、俺が口を開く。 「一つだけ聞きたいことがある。…この世界…は、何故滅んだんだ?それだけ教えてくれ。」 優佳はしばらく沈黙した後、ゆっくりと答える。 「…2038年に、世界中のコンピューターが制御不能に陥る、『2038年問題』というのが起きたのじゃ…」 「……。」 「それを回避するために、当時の世界政府は2000年の過去の世界に、タイムパトロールを送り込んだんじゃ…。そして『IBM5100』という機械を元の世界へ持ち帰り、無事回避には正解した…かに思われたんじゃ…」 「……。」 「しかし…彼の回避した世界は、元の世界ではなく、別の世界の方じゃった。…つまりは、本来はこの世界が救われるはずじゃったんだが、別の世界が救われてしまった。…それはわたしが関わっていた計画で、すべてわたしのミスじゃ…」 「そういう事…だったのか。」 だから、優佳は世界を救おうと、俺をこの世界へ呼び寄せた。 「お主は、かつてお主がいた世界で死んでいる。それが『具現化』という形でこの世界へわたしの願いに引き寄せられたんじゃ。」 「具現化?」 「『何かを思う、誰かの強い思い』を現実化することじゃ。…わたしにとっては、『世界の救済』が、強い思いだった。だからお主はこの世界に来たのじゃ…。全て…私が悪いんじゃ…。」 ーゴゴゴゴゴゴッ!!!!ー 地響きだ。 それは新幹線が脱線とかではなく、この世界の輪郭そのものが歪むような。 「な、なんだ!?」 「もう…終わりなんじゃ…」 優佳はそう言うと、顔を伏せる。 そして再び顔を上げると、大粒の涙をこぼしていた。 「お、お前…。」 「すまなかった…。わたしが呼び寄せてしまって…。こんなことに巻き込んでしまって」 「そ…そんなことより、早く脱出しないと!?」 目の前の空間が破れ、光があふれ出てくる。 「お前はここを通って、元の世界へ戻るんじゃ…。ありがとう…こんなわたしと一緒にいてくれて」 「な…何を言って…お前も一緒に…!」 だめだ…世界が揺れる…! もう世界は形をとどめていない。 全てが歪み、空間の裂け目から光があふれ俺の体を包み込む…! 「ゆ、優佳ぁあああああ…!!!」 目の前が全て真っ白になる。 俺が最後に聞いた彼女の最後の言葉は…。 「あり…がと……」 一粒の涙が零れ落ちた。
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