やまない雨

2/2
前へ
/2ページ
次へ
すれ違っては、帰り際に少しだけ話す そんな日常を繰り返して 時間だけが過ぎていった 梅雨へと入った時期 バスケ部の部活の帰り いつもより二本遅く電車に乗って帰った俺は 自転車置き場に行くところにある 小さな憩いの場である公園の前で脚を止めた 「えっ……?」 辺りは暗くなった中で よく見つけた、と褒めたいぐらいに驚いた ベンチに座って傘も差さず上を向いてるだけの 幼なじみ その姿は私服ではなく、高価なスーツ姿に身を包み 濡れた髪はどこか弄ってるように見える まるで駅の裏にある" ホストクラブの一員 "のような印象だった けれど、それよりも気になるのが雨に打たれたまま動かない姿 どうしたの?なんて聞きたいほどに 彼は顔から雨に打たれていた まるで何かを洗い流すように そして、何かを隠すような雰囲気に いつもとは違う胸の痛みを感じた 「(もしかして、泣いてるの……?)」 一番、すっと胸に入るような事だった 泣いてるのを誤魔化してるのか そう思うと彼の目元から涙が流れてるのに気付いた それと同時に、学校では不良と共に笑ってたり バイトに行くと笑ってた顔が思い浮かんで それとは全くの表情に、 何か寂しいことがあったのかなって気になり 立ち止まっていた脚を向けた 「っ……誰?」 水溜まりを踏んだ足音に ピクリと彼の肩が動き、 僅かに顔を拭いた様子を見れば 電柱のライトの下、傘を上げるように傾け 顔を見せる 「ハルくん、こんなところでどうしたの?」 「……アラン……?えっ、なんで……」 「部活終わり。君こそどうしたの?そんな服着てさ」 「あ、えっと、これは……だな」 「別にいいけど。君の隠し事なんていつものことだし」 きっと問い掛けても迷惑するだけと知ってるから 気にもしないような素振りを見せれば スーツへと手を当てていた彼は 前髪を掻き上げては呆れるように笑った 「アラン……俺、フラれたよ」 「えっ?恋人に?」 「うん、そう……」 幼なじみが付き合ってる女の子を知っていた 不良っぽくて、胸は大きくて、スカートの丈は短いような 中々綺麗なバレー部の子だった 仲良さげな印象もあったのに、何故?と傾げれば 彼は肩を揺らして笑った 「誕生日だからとプレゼントを贈った。でも、誕生日じゃなくてな……そのプレゼント、質屋に売ってたんだぜ。高かったのになー!金欲しかったなら、言ってくれりゃよかったのに……」 「馬鹿だね、君は……」 あ、駄目…… 嫉妬して慰めることが出来ない そんな女子にプレゼントしなくて 俺にプレゼントしてくれたらいいのに…… きっと六月に俺の誕生日があることすら忘れてる なのに、嘘をついた子の誕生日プレゼントは贈るなんて 酷いよ……狡いよ…… 「そんなお高いスーツ着てるから騙されるんだよ。ざまぁみやがれだよ。さっさと別れて正解だね!」 なんのバイトをしてるのか察することは出来る お金がある男は、簡単にお金目当ての女の子が集まる 俺は金に不自由はしてないし、高価なプレゼントを贈ろうなんて思わないから ご飯代やドーナツ代ぐらいは払えるけど 幼なじみはお金に不自由してる 一生懸命に働いてるんだなって学校にいる雰囲気で分かってた でも、そのお金を騙される事を知ったような子に渡すなんてどうかしてる 「ふはっ、アランはオカンか!」 「えっ……」 怒るかと思った 彼女を悪く言ったから否定するかと思ったのに 彼は笑ってからベンチから立ち上がり俺の腕へと触れた 「少しスッキリした、ありがとうな……」 「っ……!!」 嫉妬を向けたのに礼を言われる理由が分からない そんな、優しく笑われても嬉しくない! 寂しいって、辛かったて泣けばいいのに なんで笑って誤魔化すんだろう…… 「おい!ドブネズミ!サボってないで仕事にもどれ!」 「あ、はーい!あぁ……アラン。学校には黙っててくれよ……ホストしてるってこと」 幼なじみを"ドブネズミ"と呼んで それでも彼は明るく返事をしてかけは走っていく 去り際に告げられた約束に、胸は苦しい 金を得るために……内緒でそんなバイトなんてしてるなんて…… 俺と一緒になれば不自由なんてさせないのに…… 泣かせないのに……なんで君は、俺を避けるの? 「さーせん!滝修行してました!」 「んな、濡れてどうすんだよ!?さっさと着替えろ。そんな御前でも常連客はいるんだよ」 「マジっすか?やった、ドンペリいれてもーらお!」 学校で不良の中心に居るときの顔とは違った 別人の彼の態度に、俺はどの幼なじみが本人なのか知りたくて仕方ない もし、泣いてる彼が本当なら…… この雨のように…… 彼の心はずっと晴れないのだろうか それから彼はよく騙されて、フラれては その度に笑って新しい恋人を作っていた まるで愛されることを望むように 裏切られても信じ続ける彼は 身体を崩しながら、 昼間は学校の不良だけど優等生 夜は人気のホストクラブのNo.5として働いていた 俺が次に、まともに会話したのは…… 彼が男子トイレで吐いてるときだった 「ゴホッ……ゴホッ……」 「えっ、ハルくん……?」 それも真っ赤に染まった手洗い場を洗い流した彼は ついさっきまで辛そうな顔をしたのに笑って 手を肺へと押さえた 「肺と胃に影が出来たらしい……はっ、笑える……もう、ボロボロだぜ……。笑えよアラン。情けないって、馬鹿だねって……」 「なんで、そこまでして……働くの……。隠すの……?俺に言っても、相談しに来てよ!なんで……」 隠れてないで泣いて欲しいのに 彼は嘔吐付き、ボタボタと落ちる赤黒い血の混じった胃液を吐き出せばうがいをして視線を向けてきた 「御前には関係無いからさ」 「っ……俺は、君が好きなんだよ!?大好きだから……俺を選んでよ!!」 ふってしまう奴でもなくて 身体だけの遊ぶような男とでも 一晩だけの夜を求める客でもなく 只一人、君を愛する俺を選んで欲しくて 我慢していた言葉を告げれば 彼は僅かに笑ってから俺のとなりを通り過ぎた 「色男なんだ。好きな奴を作れよな。御前なら幸せになれるさ。んじゃ、体育に戻るわ」 「っ……なんで……酷いよ。そんなの、あんまりだ……」 好きな奴なんて出来るわけがない 君だけが好きなのに…… 君の傍にいたいのに 君は病気を隠して、怪我を隠して 心の傷を笑って誤魔化して立ち去るんだ 俺に僅かな弱味を見せて…… 「春!御前がいねぇとチームがかけるんだよ」 「悪い悪い、今日暑くねぇ?」 「暑いけどさー。んじゃ、春が来たし勝利は確定だな!!ジュースは俺達の手だぁ!」 「「イェーイ!!」」 「だから俺に頼るなって」 誰も知らない……誰にも見せず笑う君…… そして知らないからと無理に連れ回す者たち…… 全員が、嫌になるのは早かった…… 「っ、アラン……きさま、なにすんだよ……」 「ハルに近付かないで。じゃないと、殺すよ……?」 「っ!!やめ、やめっ、あぁぁあっ!!」 いつしか俺が出歩く日はいつも雨が降っていた 濡れて汚れる者達が、地面に転がる様をみていた そして、幼なじみの周りにいた取り巻きは また一人……また一人と消えていく 高校三年になる頃には……君は独りぼっちだった 可哀想だね……ハルくん 「アラン……俺の友達になにをした」 「さぁー?」 「何をしたかって聞いてんだよ!!御前は俺から友達を引き離して楽しいのか!?彼女すら寝取って楽しいのかよ!?」 「楽しいよ……。嫌ならさぁ、俺と付き合ってよ」 「!!」 酷い言葉を告げて、君を捕らえる 嫌そうに目を見開いても 泣いていた女や叫んでいた友達を思い出せば 君は、俺の言葉に否定できない 「付き合えば、もう……他人には手を出さないか?」 「うん、約束するよ……。だから、今日から君は俺の恋人だよ、ハルくん」 悲しませないよ、泣かせはしない それが出来るのは俺しかいないのだから…… 止むことを知らない雨は、永遠と俺達の間に降り続いて 身も心も冷たくしていく そっと背中へと腕を回した君の背後で 俺は静かに泣いていた こんな事でしか…… 君を手にいれる方法を知らなかったんだ ごめんね……ごめんね……春くん そして、24歳になった現在には…… 君の薬指には俺と同じ指輪が嵌まっていた 「ハルくん、すきだよ」 「ん?あぁ、俺もだ……すきだ」 君を手にいれるために 君の大切な、友人も恋人も家族とも引き離して ただ、俺は自己満足に浸っていた ずっと、ずっと……君が傍にいるならそれでいい ~ 終わり ~
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加