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やまない雨
四歳の頃から出会い
いつも一緒にいた
大切で大好きな幼なじみがいる
小学校卒業と同時に俺はイギリスに行って
幼なじみは一人日本に残っていた
次に出会ったのは三年後の高校一年生の入学式
私立の私服校であり、専門の知識が学べる場所
そこで俺は福祉課へと行き
幼なじみは特進のビジネス課へと入学していた
俺にとって幼なじみを忘れることの出来なかった三年間
けれど、幼なじみにとって俺を忘れた三年間でもある
空白の三年は余りにも大きな見えない壁を
俺達の間に隔てていた
いつも怪我をして不良と笑っている幼なじみと
女の子に囲まれて王子と呼ばれる俺とでは
住む世界も立場は全く違っていた
それでも俺は……幼なじみと距離を縮めたかった
好きだから……三年間想っていた気持ちに
正直になりたくて
傍にいたいと望んでいた
それが叶わない願いと知っていても……
「あ、ハル……」
帰り道、登下校する道は同じ
殆どの生徒が電車のある駅へと向かうなかで
バスケ部の部活がなくて、今日こそは声をかけて
" 一緒に帰ろう "只それだけの言葉を言おうと
見掛けた彼に近づこうとすれば
階段に座っていた茶髪でピアスをつけてたり
じゃらじゃらのチェーンを腰にぶら下げた不良達は
幼なじみの肩へと腕を回す
「よう!春!一緒に帰ろうぜ!」
「帰りに立ち食いうどんでも食いにいこうぜ!」
「お、食うか?んじゃー行くか!」
一人目立つ、銀色の髪に赤い目をした幼なじみは
昔よりもっと少年らしくなっていた
俺ではない他の男に向ける笑顔に胸が痛くなる
「っ……」
「アランくん!一緒にかーてろ!」
「帰りにドーナツ食べない?」
立ち止まっていた俺の左右には、
腕へと組む女子の姿がある
幼なじみ以外の男子は好きじゃないけど
女の子は平気な俺は、張り付けた笑みを向ける
「いいね、行こうか。新しく出来たドーナツ屋だよね?」
「そうそう!一緒に食べて見たくて!」
「嘘じゃん、先に食べてたでしょー」
「ははっ。いいじゃん。皆でまた食べたらさ」
駅とは違う反対の道
背後に歩く幼なじみに背を向けて
俺達はドーナツ屋へと向かった
俺も学校終わりだからこそ
立ち食いうどんとか食べてみたい
美味しいって好評の場所だけど
沢山の男がいるから行き辛い……
でも、彼は気にもせずにその場にいるのだろう
相槌を打ちながら彼女達の話を聞いて
ドーナツは買って持ち歩いて食べることにしていれば
予定より早く駅についた
「ははっ!C高なんて雑魚だって」
「こっちには春がついてんだからさ!」
「どうだか?俺も強くはねぇからなぁ~」
「んなわけねぇって、俺等が保証する」
ゲラゲラと大声で笑っては
立ち食いうどんの場所でたむろしてる彼等の中央には
うどんを啜りながら軽く笑っている幼なじみの姿がある
少し遠くからその様子を見ていれば、女子達は告げた
「本当、不良って存在だけで嫌だよね」
「特進のくせに学校の恥だよ」
「行こう、アランくん!」
「あ、うん……」
幼なじみは、他の不良とは違ってゲラゲラ大声で笑うことなく
静かに笑って綺麗に食べている印象があった
それに喧嘩だって売られなきゃ買わないような人だと言うことは知っている
俺達の話しを聞いていたのか、不良達は鼻で笑った
「一年の王子様は、女に守られなきゃいい顔も出来ないってか?」
「股の緩い女と遊ぶなんて、王子もタラシだなぁ?」
遊んでないと視線を向けようとしても
幼なじみの顔は此方には一切向いてなかった
その事に、俺に興味ないんだと察する
「はぁ!?ブサメンが羨ましがってるだけだろ」
「べーー!気持ち悪いからこっち見ないで」
「んだと!?」
その辺の物を蹴り飛ばした不良に
女子は驚いた声を上げれば
幼なじみは割り箸を置き、静かに両手を合わせては立ち上がる
「女子に手は出すな。ほら、行くぞ。電車が来る」
「お、おう。行こうぜ」
「おっちゃん、御馳走様っす!」
不良を束ねていた幼なじみの言葉で
彼等は薄っぺらい学生鞄を持って駅のホームへと向かった
やっぱり幼なじみは一度も、俺と目を合わせることは無かった
乗る電車も同じなのに
車両が違うから会うことは無い
女子達の話を聞いて、車両の入り口から見える
不良達は床に座る者や椅子に座るものがいる
その中で、幼なじみは彼等の前に立ってポールに軽く凭れながら笑って話していた
「(……俺も、話したい)」
声を掛けたくても
御互いに毛嫌いしてる者が傍にいる
幼なじみは異性が苦手だ
そして俺は男が苦手だった
此処まで壁が出来た事に胸が痛み
心は曇っていても空はどこまでも晴れていた
学校の駅から十個目の駅
片道一時間四十分の道のりを終えれば
残るものは、この地域の者しかいない
俺の周りにも、幼なじみの周りにも
誰もいないからやっと話しかけられると思って
駅のホームを下りて、改札口を通れば彼へと声をかけた
「ハルくん!」
周りの人も振り返るなかで、気にもせず名を呼べば
彼は脚を止めて、イヤホンを外せば俺へと振り返り笑みを浮かべた
「一緒に帰るか、アラン」
「うん!!」
学校とは違った俺達の時間
頷いて駆け寄れば、その隣に立つことを許される
俺より少しだけ背の低い彼は、
反対側のイヤホンだけ付けながら歩く
「相変わらずモテるなぁ」
「えーそうかな?ハルくんだってモテモテじゃん、不良達に」
「ふはっ。彼奴等は犬みたいなものさ。飼い主がいれば従うだけ。大人しい連中だ」
「彼女達は猫かな~気紛れで」
話せなかった事を沢山話して
ゆっくりと歩く速度を合わせて歩いていれば
夕焼けによって繋がる背後の影は肩を並べていた
少しだけそれを見て、手の位置を動かせば
繋いでるように見えてちょっとだけ嬉しい
「なぁ、アラン」
「へっ、あっ、なに?」
呼ばれたことに驚いて
パッと手を背後に隠して返事をすれば
彼は自転車置き場の前で立ち止まり親指を背後へと向けた
「俺は今からバイトだから、此処までだ。んじゃ、またな」
「えっ、バイトってどこに!?」
「また明日~」
帰るまで一緒だと思っていたのに
そんな事はなくて彼はマウンテンバイクに乗ってバイトへと向かった
その背中を見てまた寂しくなる
「なんだ……一緒に帰れないんだ……」
触れられる距離にいた
手を繋いでいられる距離に
触ることの無かった右手へと視線を落として
指をぎゅっと握り締める
「幼なじみが、好きだなんて……気持ち悪いもんね……」
諦めなきゃいけない想いだけど
諦めきれない感情はめんどくさいと思う
こんなにも嫌われることが怖いなんて
俺らしくもない……
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