新しい義父が元魔女なんてありえない。

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「太一くんには深い傷がありますね。」 すると突然ミヒャエルが振り向き、眉尾を下げて言った。 「は?何のことだよ。そんなのねーよ。」 「ありますよ。ここに。」 ミヒャエルは俺の左の胸にそっと手を当てた。 「心臓...?」 「いえ。心です。」 「こころ...。」 「我が一族は古より魔法で傷を癒すことができます。でもね、私でも治すのが難しいものがある。 それは、太一くんや春子さんのように、愛する人を亡くしてついた心の傷です...。」 「父さんを亡くした時の傷...?」 そりゃ当然悲しかった。辛かった。苦しかった。でもそれ以上に、生きなきゃいけないと思った。 父さんの分も母さんを守る為に、強くならなきゃいけないと。 「私は春子さんと太一くんを随分前から知ってました。」 「なんだそれ...いつからだよ。」 「太一くんのお父さんが死んだ日です。お父さんは炎に包まながら、自分はもうダメだというのに最後に目の前に現れた私のことも助けようとしたんです。偶然通りすがっただけの私を。私は胸が打たれました。 そして最期にあなた方の名前を呼び、私に一言いったのです。『あの二人を頼んだ』と。」 ミヒャエルが泣きそうな顔を向けるので、一体どうしたんだと思った。 だがそれは俺が涙を流していたからだった。 最期の父さんの言葉。父さんの優しさ。父さんの意志。 全てがハッキリと頭の中に流れ込んでくる。  ミヒャエルが俺の頭にポンと手のひらを乗せた瞬間、俺はミヒャエルにしがみつき声をあげて泣いた。 果てしなく広がる空の中心で。 ここなら誰にも聞かれない。母さんにも父さんにも、誰にもー。  泣き疲れてボーッとしていると、しばらくそのままミヒャエルは空を飛んでくれていた。何も言わず、心に滲み入るほどの絶景を見せてくれた。  ミヒャエルが来てからのことが走馬灯のように頭に浮かぶ。頭のかたい俺でも今ならわかる...。 「俺らのために....俺のために禁忌を破ったのか...。」 父さんを失って2人きりになった俺と母さんをずっと見守り、今度は母さんを失って1人になってしまう俺のために母さんを助けた。 そんな自分のことを顧みず、そんなの...  するとミヒャエルがクスリと笑ったのが背中越しにわかった。 「ふふ。タイプだったと言ったでしょう?」 「はいはいそうですか。ミヒャ...ミヒャエル...」 ん?言葉に出すとなんか言いづらいな。 なんで『ミカエル』とか『ミハエル』じゃなくてミヒャエルなんだよ。 「はいなんでしょう?たい...たいちくん。」 いや真似すんな。遊んでんじゃねーから。 「指輪...探しに行こうぜ。母さんの。」 「あぁそうですね!今日は海の中も探してみましょうか。」 どうやってだ。まさか魔法で海の中にも入れるのか?それはすごく興味ある......が。 「新しい指輪だよ。買いに行くの付き合ってやる。」 「え?それは...」 振り返ろうとしたミヒャエルの顔を手のひらでグイッと押し返すと、せっかくのイケメンフェイスがつぶれて変な顔になった。 なるほど。イケメンが憎くなったら今度からこの手を使おう。   「...父さんって呼ぶのはまだ先になるけど、ミヒャエルってのも呼びづらいし...。まぁそこはおいおい考えるよ。」 「太一くん...」 ミヒャエルは感激したような声を出した。しかもグズグズ鼻をすする音も聞こえる。 ったく大の男が泣くな。歳取りすぎて涙脆いのか?こっちまでまた涙腺崩壊するだろうが。 「あの...本当は秘密なんですけど、太一くんだけには本当のこと言っておきますね。」 「は?」 「実は私、本当は魔女ではなく.........」 振り返って耳打ちされた言葉に俺は目を丸くした。 やっぱりな。どうりで色々と怪しかったわけだ。  ミヒャエルが悪者中の悪者でも、不死身で最強ならそれでいい。むしろただの『魔女』だったらありえない。 俺は1番強いのが好きだ。俺らの為にその地位も国もあっさり捨ててくるなんて随分粋な真似してくれる。そんな自己犠牲、もうとっくに『家族』みたいじゃないか。 まぁ新しい義父になるのならそんくらいじゃないとな。 認めるよ。これからは母さんと俺だけの『正義の味方』でいてくれ。 「よろしくな...元魔王の父さん。」
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