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どうやら優しいだけではダメらしい
「優しすぎてつまんないんだよね。」
僕は今まで生きてきた26年間で、5人の女性とお付き合いをしてきた。みんなにアンケートを取ったことがないから分からないけど、でもたぶん平均的にそれなりの付き合いはしてきたと思う。
そしてその5人中、4人に別れ際に言われたセリフは、すべて一致している。
―――優しすぎて、つまらない。
またか、と思った。
付き合う前は好きなタイプは優しい人だってみんな言ったのに、別れが来るとみんなそう言う。それじゃあ優しくなくすればいいのかというと、そういうわけではないらしい。
「まあ飲めよ。」
またかという言葉を飲み込むようにして、大学からの友達のの拓斗(たくと)は言った。僕が付き合った5人中4人の元カノたちのことも、その全員からつまらないという理由で僕が振られたという事も知っているこいつは、哀れな目線で僕を見た。
「瑞貴(みずき)は優しすぎるよ、
俺の目から見ても。」
「優しい人がいいってゆったくせに。」
こんなことを言われるのは、女みたいな名前のせいだろうか。
結構気に入っている名前なのに、今はその名前を少し恨みながら、振られた女みたいなセリフを言った。
平然を装ってはいるものの、結構きつい。
僕は毎回本気で女性と付き合っていたし、男友達からよく聞くセフレとか風俗とか、そういうものと縁遠い世界で生きている。いつかこの人と結婚するんだって思って付き合ってるし、そう思って大切にする。
こういうところが、僕が平凡でつまらない理由なのだろうか。
考えれば考えるほど辛くなりそうだったから、僕はグラスに残っていたビールをすべて飲み干した。
「お前って性欲あんの?」
「失礼な。人並みにあるよ。」
もちろん、性欲はある。
好きな人と一緒にいれば手をつなぎたいし、キスもしたいし、セックスだってしたい。彼女がいるなら定期的にしたいし、襲う時は襲う。
「もしかして、めちゃくちゃ下手とか。」
「やめろって、落ち込む。」
「本気にすんなって、冗談だよ。」
原因を考えても考えても思いつかないから、本当にそうなんじゃないかと不安になった。でも今更不安に思ったって、原因がはっきりするわけではない。
新しく来たビールをまた半分くらい飲み干して、悲しい気持ちも不安な気持ちも全部出ていくように深いため息をついた。
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