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  6月末。梅雨はそろそろ終わりを迎えるらしいと天気予報で見た。ビニール傘の嫌な記憶や、死に迫る体との別れが近づいている。祖父や父が死んだ病気で僕も死ぬ。それだけは嫌だった。   僕には姉さんがいた。子供っぽいところがあったけど、嫌いじゃなかった。そんな姉さんにも、一人子供がいる。その子供は男の子だった。3代も続いて跡取りが同じ病気で死ねば、姉さんはきっと辛いだろう。   だから僕は母に頼んで、病気のことや仕事を辞めたことは秘密にしている。実家には帰らない。姉さんのいる地元には帰れない。僕はこの場所で一人で死ぬつもりだった。   『殺してあげようか』   じっとりとした空気が急に晴れやかになったようだった。病気で死にたくない。でも自殺では保険金が入らない。彼女に殺してもらえば、病気だったことを隠し通したまま死ぬことが出来る。父が死んで生活苦だった実家も少しは潤うことだろう。   これは家族を苦しめる僕に対する罰のようなものなのだ。僕は僕に復讐するとは、そういうことなのだ。
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