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「突然すまない」
彼女は微笑を張り付け、僕を部屋に招き入れた。以前と同じ部屋に通されたが、前のように紅茶をいれるように言われることはなかった。少ししてトレーを持った彼女が戻ってきた。紅茶とシフォンケーキをティーテーブルに並べる。流れるように僕の目の前に保険証を置いた。
「探し物はこちらでしょう?」
僕は礼を言って財布にしまった。
「なお」
「え?」
「私の名前。知らないと不便でしょう? 渡さん」
「保険証取りに来ただけだから別に」
なおは僕の話を無視して、紅茶を飲むように勧める。
「この前の話だけど……」
「うん。考えてくれたの?」
「なおが殺してくれるなら死んでもいい」
「自殺じゃ意味ないもんね」
僕は頷いきながら目をこすった。瞼が重く感じる。なおは不意に立ち上がりその冷たい指先で僕の目の下の隈をなでる。
「かわいそうに。眠れないのね」
「今日は……随分饒舌だね……」
なおはそのまま手の位置を下げて軽く僕の首を絞める。次に心臓のあたりを押さえる。
「どうやって殺してあげようかなって考えたら、たくさん喋りたくなったの」
「そう」
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